出演者:二宮和也&松本潤

第十二章 逃亡者と窮地の陥落


―――追っ手から必死で逃れる逃亡者
     そんな逃亡者が安心できる場所なんてあるのだろうか
     幸せな生活をすることができるのだろうか
     永遠の幸せなんて・・・あるのだろうか―――


彼女の可愛らしい寝顔を奪ってしまうのかと思うと起こすのが少し勿体ない気もしたが、
一面に広がる銀世界を早く見せたくて彼女の体を揺さぶった。

「ん?」
目をこすりながら俺の方を見た。
「おはよう、深雪さん」
「・・・おはよう」
そう言った後、彼女の大きな瞳がパッチリとした。
「うわぁ、きれい!」
「でしょ?トンネルを抜けたらこんなに綺麗な銀世界だったから早く深雪さんに見せたくて」
「こんな一面に広がる銀世界を見たの初めて。この列車は幸せのトンネルを抜けたんだね」
彼女は本当に幸せそうな顔をしていた。

俺たちの乗ってるこの列車が幸せのトンネルを抜けたんだとしたら、ここは幸せの世界なのか?
この地では俺たちは幸せに暮らすことができるのか?
だとしたなら・・・
もう何かから逃れる必要もなくなるのか?

列車が終着駅に着いた。
その駅に足を踏み入れると、ふとあいつの顔が浮かんだ。
「どうかした?」
彼女が俺の顔を覗き込んできた。
「あいつのことを思い出してたんだ」
「あいつ?」
「うん。俺の親友」


この街は俺の唯一の親友の住んでいる街だ。
3年というとても短い月日だったけど、俺たちにとってはもっと長く大切な月日だった。

出会った頃は口うるさくてお節介なあいつを鬱陶しく思っていたが、あいつといる時だけは
穏やかな気持ちになれた。
あいつのお陰で辛い事も忘れることができた。
あいつといると毎日が楽しくて・・・。
そんなあいつが中学卒業と同時に引っ越すことになった。

そして俺はまた一人になった。


俺は深雪さんの手を取って歩き出した。

「着いた・・・」
「ここは?」
俺たちはある家の前に着いた。
「俺の親友の家」

あいつに会おうと何度も来た場所だったので迷いはしなかった。
だけどいざ来てみるといつも会えずにいた・・・。

少しの不安と緊張を胸に抱きながらインターホンを押した。


「はーい!」

その声に俺はピクリとしてしまった。
聞こえてきた声は紛れもなくあいつの声だった。
久しぶりに聞くあいつの声に俺は優しさに包まれたような気がした。

「はーい、どちら様で・・・」
ドアを開けて俺の顔を見たあいつは目を丸くしていた。
「二宮・・・」
「おぅ・・・」

しばらく時間が止まっていたかのように思えた。

「よく来たなぁ。でもビックリしたよ」
「そうかぁ?」
「当たり前だよ。何の連絡もよこさないでさぁ」
「バカ、お前が“電話するからなー”って言ったんじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
昔に戻った気がした。
あいつの笑顔は相変わらずだった。
「彼女?」
今まで俺に向けていた視線を深雪さんに移し聞いてきた。
「あ、うん・・・」
「初めまして。松本潤です」
「あっ、初めまして。杉山深雪です」
「まぁ上がれよ」
「あぁ・・・」


「・・・それにしてもお前にこんな素敵な彼女ができてたなんてなぁ」
「何だよその言い方」
「褒めてんじゃんか。素敵な彼女だって」
「お前はどうなんだよ」
「俺のことはどうでもいいじゃん。それより・・・何か話でもあるんじゃないのか?」
潤は真っ直ぐ俺を見た。


・・・いつもそうだった。
俺の気持ちを察してくれていた。
誰よりも俺の気持ちを理解してくれていた。


俺は、どうして俺と深雪さんがこの場所に来たのかを話し始めた。
思い出したくない事が沢山あって辛かったけど、潤なら・・・助言してくれると思った。

昔よく助言してもらっていたが、その時は期待通りの言葉が返ってこず腹を立てたりもしていたが、
今考えてみると潤の助言はいつも俺をいい方向に導いてくれていた。
だからと言って潤に頼ってばかりいてはいけないが、今は本当に潤の助けが必要だった。

「・・・それで、これからどうするんだ?」
潤の重々しい言葉が耳に入ってきた。
「・・・分からない。先の事なんて何も考えずに列車に飛び乗ったから・・・。
このまま逃げてちゃいけないって分かってるけど、何をしたらいいのか分からないんだ・・・」
「じゃあ家にいろよ」
「えっ?!」
「ずっとって訳にはいかないけど、考えがまとまるまでさ・・・」
「潤・・・。ごめんな・・・」


ごめんな・・・
いつも迷惑ばかりかけて――――

目が覚めると外が騒がしかった。
俺は潤の姿を探した。
「二宮!!」
見ると潤がすごい剣幕で俺を見ていた。
「どうしたんだよ」
「早く彼女を連れて裏口から逃げろ」
「何だよ?何かあったのか?」
「今朝、彼女が誘拐されたっていうニュースが流れたんだ」
――ニュース?――
「それでお前たちの事情を知らない母さんが警察に通報したんだよ」
「えっ?」
「今玄関に警察がいるから、早く裏口から逃げろ!」
「わ、分かった」

俺は深雪さんを起こして裏口から逃げた。


ほっとしたのも束の間、俺たちはまた逃亡者となった――――





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